鳥インフルエンザに関する見解


全国合鴨水稲会世話人会


 現在、鳥インフルエンザが各地で広がりを見せ、毎日のようにニュースが流れ国民的話題となり社会問題化しています。これに伴い、鳥インフルエンザがアヒルから由来とするニュースが流されることもあって、合鴨で稲作を実施する農家には、地域の中で様々なプレッシャーがかかり、心配と動揺も広がっているのではないかと推察致します。

 そこで取り急ぎ世話人会で取りまとめた見解を送付しますので、今後の対応の際、何らかの参考に供していただければ幸いに存じます。


1.  基本的視点

 まず、この問題に対して正しく対処するには、基本的な視点を明確に捉えておくことが何よりも大切です。

@   病原菌と人間の関係

細菌やウイルスなどの病原菌に対して、人間はその抗体を獲得して抵抗力を身につけて対処してきました。これに対して病原菌は生き抜くために変異して新型のタイプで再び人間を襲います。これに対して人間も再びこの新型の病原菌に対して抗体を獲得し抵抗力を身につけていきます。一方、人間は農薬や抗生物質を開発して病原菌に対抗してきましたが、これに対しても病原菌は耐性菌を獲得したり変異して新型の病原菌となって反撃してきました。この繰り返しが生物の進化の過程であり、未来永劫に続く生物の本質なのです。

その意味では今回の鳥インフルエンザに対しても、ヒステリックに騒ぐようなことではなく、冷静に対応する必要があります。

A  近代化畜産のあり方

戦後の日本畜産の近代化政策は、安全よりも経済効率を第一義的に考え、単一経営の規模拡大路線を推し進め、人工的施設下で大量飼育し(密飼い)、輸入穀物を原料とする配合飼料を与え、疾病対策には抗生物質など薬を多投してきました。これでは家畜本来の抵抗力は失われ、病気に弱いものとなり、病原菌に感染した場合には、一気に農場内に広がり、何十万羽の鶏が大量死することになる危険性を常にはらんでおります。また外国依存型の飼料では、病原菌を付着した輸入飼料が持ち込まれる危険性も常に持っています。これまでの口蹄疫やBSE(狂牛病)はその典型的な事例です。この意味で鳥インフルエンザ等の発生は当然考えられたことです。

B  農産物の輸入拡大

戦後、工業立国を柱とする国策の中で、日本農業と農村は衰退し、今や食糧自給率40%に見られるように、多くの農産物を外国に依存する構造に変えられてきました。多くの食糧を外国にゆだねるということは、同時にそれだけ危険な物や病原菌が持ち込まれる可能性が拡大されていることになります。その意味で今回の鳥インフルエンザに限らず、国民はもっと輸入食糧全般に対する安全性のことを問題にしなければなりません。

C 防疫体制と衛生行政

これだけ世界がグローバル化され、人の往来が地球規模で頻繁に行われる時代にあっては、人体に付着してくる病原菌を入国ラインで未然に防ぐことはほぼ不可能なことです。また渡り鳥や野鳥説も浮上していますが、こんなことは大昔から続いている関係であり、これも渡り鳥や野鳥を全滅させない限り、水際作戦で防げるようなことではありません。

 これまでの衛生管理の基本視点は、病原菌の撲滅と遮断にありました。撲滅のためには消毒対策が徹底して行われ、遮断のためにはウインドレス鶏舎に見られるように、野外から隔離された人工施設管理が推し進められてきました。本来の衛生対策の基本は、撲滅と遮断ではなく、その病原菌に触れながら自然免疫力を獲得し抵抗力のある家畜を育てていくことにあるのではないでしょうか。その意味では病原菌と付き合いながら折り合いをつけていくところに衛生対策の基本があると思われます。

 以上のことを念頭におけば、戦後のわが国の工業立国による工業製品で外貨を稼ぎ、食糧は輸入に依存する農業軽視の経済効率一辺倒で安全性無視の国策や衛生行政、そして近年のグローバル化が、基本的な問題として横たわっていることを、鳥インフルエンザが我々国民に対して警告を発しているとみるべきでしょう。

2.  当面の具体的対応策

 本来、自然に近い状態で健康に飼育されている合鴨や庭先の鶏は、病原菌に対する抵抗力があり、めったに病気にはかからないものです。特に合鴨農法では自然力を生かして水田で健康に飼育し、しかも安全・安心な米を生産するという、国民にとってすばらしい農法であり、大規模化・人工施設化した近代化畜産とは異にするものです。

しかしながら、今回の大分県の庭先のチャボでも鳥インフルエンザが発生したことを考慮に入れれば、今回の鳥インフルエンザのウイルスは極めて伝染力の強い高病原性のものと考えられます。したがって合鴨農家においても、今回の鳥インフルエンザに対しては他人事とは考えず、厳正に冷静に対処することが今求められていると思います。

 
 @ 健康な飼育管理と衛生対策

 常日頃より健全な合鴨の飼育に心がけるとともに、清潔な飼育環境で衛生対策にも十分配慮して管理することが大切です。


 A 合鴨の検査要請があった場合

 最寄りの家畜保健所より、飼育している合鴨の検査要請が来た場合には、躊躇せず受け入れた方が良いと思います。そして抗体検査の結果、鳥インフルエンザのウイルスがもし検出された場合には、家畜保健所等の指示にしたがって対処すべきでしょう。


 B 不自然な合鴨の死亡発生

 明らかに死亡原因がわかるものは別にして、不審で不自然な死に方をした合鴨が発生した場合には、毅然とした態度で最寄りの家畜保健所や役場に直ちに届出をして下さい。もちろん言うまでもなく法定伝染病の場合には届出が義務づけられていますので。私共の合鴨水稲会は企業秘密や隠し事とは無縁であり、常に情報公開の姿勢で臨んできましたし、今後ともこの姿勢が私共の誇りでもあります。


 C 健康な家禽類の異常処分について

 一部の地域で、学校で飼育する家禽類の殺処分を指示したり、境内で飼われる神社の鳥も処分したり、あるいは捨て鳥が出たりなど、健康な家禽類までが犠牲になっている事例が多発していますが、これは明らかにヒステリックで行き過ぎたやり方です。


 D 家禽類の移動や放し飼い自粛について

一部の地域では、家禽類の移動や放し飼いを自粛するよう行政指導が行われているところも出てきているようです。もちろん不必要な移動や放し飼いは慎むべきですが、自分の経営事情から必要とするものまで中止する必要はなく、十分に衛生対策に配慮しながら対処して下さい。


3. 今後心配される課題

 @ 今年の合鴨雛の確保

 合鴨の孵化業者から購入を考えている農家では、問題が出てくる可能性があります。その一つは孵化業者自体の雛出荷が禁止される、今一つは合鴨雛が宅配便メーカーの拒否により宅配便では送れないという事態です。そうすれば今年の合鴨雛を入手できず、合鴨稲作を断念せざるを得ないという深刻な事態に追い込まれる可能性が否定できないということです。この懸念に対する万全の対策を今から考えておかなければなりません。

 A 水田への合鴨放飼の禁止

 絶対にあってはならないことですが、鳥インフルエンザが春まで下火にならない場合には、今春、合鴨を水田に放飼することを自粛するような行政指導が行われるかもしれないという懸念です。

 そのような事態に至った場合には、全国合鴨水稲会としても消費者とともに世論を喚起し、国民の理解を得るよう厳正に対処していきたいと考えています。

以上