ケロケロ通信 第47号 2000.2.19

 

よその田んぼも作ることになりました

 昨年から今年にかけて、私が農業をしているこの高家地区でも3人が農業を辞めてしまいました。

 10年前は21人いた農家が、いまでは11人(専業農家は4人)になりました。しかも、あと5年内には、もう5人くらいは減ってしまいそうです。

 残った6人も、自分の代だけでやめる人ばかりで、後継者は誰もいないといった有様です。

 田んぼの1/3は減反を強制されて(……これは今後さらに増えていくことになるでしょう)、しかも、年々米価は下がってきて、加えて、外米の輸入の増加で農業に将来が見えてこない。皆、息子を勤めに出すのは当然でしょう。

 早いもの勝ちで、我先に農業から逃げ出しているといったところが現状です。(日本中の村で同じ事が行われているのです。)

 

 私は有機農業を初めて12年目になりますが、未だに夏場の除草作業に良い解決方法を見いだせず、夏中田んぼを這いずりまわっています。  今の僅か2.5haの田んぼでさえ持て余しているというのが本音で、面積を増やすに増やせない状況でした。

 よそから、田んぼを作ってくれと頼まれても、すべて断っていたのですが、しかし、これだけ農家が減っていく中で、そうそういつまでも断り続けるわけにはいかず、今年からよその田んぼも引き受けることにしました。

 当然、私は農薬や化学肥料などは使いませんので、何とか別の新しい除草法を編み出さないと大変なことになりそうです。

《苦渋の選択》

 もうひとつ困ったことに、近頃米が段々売れ残るようになってきました。

 長引く不況に加え、このところのディスカウント店を中心とした米の投げ売り合戦で、「安全」や「環境」の理念など蹴散らされてしまって、我家の米も苦戦を強いられ、だいぶ余るようになってきました。

 とても食べていける状況じゃなくなって、2年ほど前から家内も勤めにでているような状態です。(…ちなみに、黒崎そごうの紳士服売場にいますので、何かの時は利用してやって下さい)

 こういう状況下でよその田んぼを引き受けるのですから、もしうまくできたとしても、さて、その米をどうして売っていこうかと、頭を抱えているところです。

 そこで、ずいぶん迷ったのですが、今回から米の値段を下げることにしました。(……値段を少し下げたくらいで、米の消費が伸びたり、お客さんが増えるとは思えないのですが……)

 これまで私は、私の米の値段は有機農業が再生産できる値段としてこだわってきました。  農業が再生産できるというのは、後継者が作れる値段という事です。  勤めにでている息子に「会社を辞めて有機農業をやらんか」と皆が言える値段です。

 皆さんにはそういうことで12年もの間、あの値段で買っていただいて、我が家の暮らしと田んぼの環境を支えていただきました。

ほんとに感謝いたしております。

 しかし、世間のあまりの安さにそろそろ限界を感じてきて、値下げに踏み切ったわけです。

 とは言え、世間の農薬や化学肥料で作った米のような値段にはなるわけもなく、僅かな値下げに見えるかもしれませんが、まだ達成していない、将来達成するであろう除草技術に対しての先行値下げです。私としてはぎりぎりの値下げですので、そこのところで今後ともよろしくお願いいたします。

 

★ 新 価 格 表 ★ 5s入り

◎有機米(合鴨米を含む)

    ……3年以上除草剤をはじめとする農薬や化学肥料、有害

      家畜糞尿などを使わずに作った米

 玄米      (旧)3500円 → (新)3000円

  白米、七分米等 (旧)3800円 → (新)3300円

 

◎有機転換期間米 (今度の秋から)

    ……有機米に準ずるが、農薬や化学肥料等をやめてから

      3年に満たないもの

  玄米      (旧)3000円 → (新)2500円

  白米、七分米等 (旧)3300円 → (新)2800円

 

《有機農産物のJAS法施行》

皆さんも新聞テレビでご存じかと思いますが、この4月から有機農産物の表示がJAS法で規制されることになりました。とは言っても移行猶予期間が半年あるので、実際には10月からということになります。

今までがあまりにいい加減な“有機”農産物が横行していたための処置です。 農薬を使っているのに、化学肥料を使っているのに有機だと称した物が出回っていたのです。厄介なことに、そんな物を作っている農家自身が、堆肥を入れたから、有機肥料も使ったから有機農産物だと思いこんでいるのです。中には農薬を使ったのに高電圧をかけたから無農薬だと、堂々と公言して売っている“無農薬”米や野菜もありますが、「そんな馬鹿な」って思いませんか。

このJAS法施行後は、おそらく有機農産物と称する物の99%は姿を消してしまうのではないでしょうか。

こう書いてくると大変良い法律のように見えるのですが、実は大変な問題が含まれていて、日本の有機農業運動をつぶしかねない悪法なのです。

農産物に有機と表示するためには、第3者の認証機関に、認証料を支払って認証してもらわないといけない仕組みになっています。

認証機関によって違うのですが、1圃場5万円とか10万円とかの認証料を支払って、ほかに、交通費や宿泊費も払わなければなりません。 仮に私が全部認証を受けようとするなら、おそらく毎年100万円以上の認証料が必要になります。農水省はその経費を消費者に添加しなさいと言うのですが、よほど高収益があがる施設園芸などでないと無理だと思います。

そもそも、有機農業は安全な農産物を作るためにしているのではないのです。 本当の目的は、こんな汚染された地球を憂い、少しでもまともな環境にして未来の子供たちに手渡したいとの願いです。 では百姓としてなにができるか。  それなら、農薬や化学肥料をやめようという運動なのです。

そういう農業をした結果、そこで穫れた農産物が周囲より安全だったというだけの事です。

「安全性」は単なる結果のひとつにすぎないのです。ところが現実は結果の安全性だけが一人歩きしてしまって本来の有機農業運動を歪めてしまっているのです。そのことを大変危惧するこのごろです。

 

 

※1年ぶりのケロケロ通信です。パソコンで手抜きしました。

            093−293−2975   筋田 靖之


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